日本の食卓から消える「黄金のだし北海道産昆布の絶滅危機と磯焼けの実態

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年次 漁獲量(トン) 海水温(℃平均) 磯焼け率(%)
平成元年 15,000 12.5 5
2020年 2,550 14.2 65
2025年推定 1,800 15.1 80



15,000t

2,550t

1,800t
昆布漁獲量推移グラフ

出典: 北海道大学四ツ倉教授研究・水産庁データ。磯焼け率上昇が漁獲減直結。[web:北海道大]

日本の食卓から消える「黄金のだし」:北海道産昆布の絶滅危機と磯焼けの実態
2025年も残すところあとわずかとなりました。年末年始の準備に追われる中、おせち料理の定番である「昆布巻き」や、年越しそばの「出汁(だし)」の香りに安らぎを感じる方も多いでしょう。
しかし今、和食の根幹を支える「昆布」が、かつてない存亡の危機に立たされています。専門家からは「今世紀末には北海道から昆布が消滅する」という衝撃的な予測も飛び出しました。
本記事では、昆布不漁の背景にある「磯焼け」のメカニズムや海水温上昇の影響、そして私たちの食文化に与える深刻な打撃について、具体的なデータを交えて詳しく解説します。

  1. 昆布消費のピークに忍び寄る「供給不足」の影
    12月は、年間で最も昆布が消費される月です。総務省の家計調査を見ても、12月の支出金額は他の月を圧倒しています。おせち料理や鍋物など、冬の味覚に昆布は欠かせない存在だからです。
    おせち料理と昆布の深い関係
    おせち料理に欠かせない「昆布巻き」には、「喜ぶ(よろこぶ)」という言葉にかけた縁起物としての意味があります。煮崩れせず、中心に巻かれたニシンや鮭の旨味を引き立てる昆布は、重箱全体を彩る「黒の引き締め役」として重宝されてきました。
    しかし、近年はこの「当たり前」の風景が維持できなくなりつつあります。加工メーカーからは「良質な昆布の仕入れが年々困難になっている」という悲鳴が上がっているのが現状です。
    過去最低水準まで落ち込んだ漁獲量
    北海道大学の四ツ倉典滋教授(北方生物圏フィールド科学センター)の研究によれば、現在の天然昆布の漁獲量は、平成元年のわずか17%にまで激減しています。養殖を含めた全体の漁獲量でも約25%にとどまっており、わずか30数年で市場から4分の3の昆布が姿を消した計算になります。
    かつては「海の黒いダイヤ」と称されるほど豊かだった北海道の海で、一体何が起きているのでしょうか。
  2. 海底の砂漠化「磯焼け」がもたらす致命的な影響
    昆布が姿を消している最大の原因は、海底で進行する「磯焼け」という現象です。これは、海藻が群生する「藻場(もば)」が消失し、岩肌が真っ白に露出してしまう状態を指します。
    海水温上昇が引き起こす生態系の変化
    昆布は冷たい水を好む植物であり、生育には最適な温度域(概ね15度以下)が必要です。しかし、近年の地球温暖化に伴う海水温の上昇により、北海道周辺の海域でも昆布が育ちにくい環境へと変化しました。
    海水温が高い状態が続くと、昆布の幼体が生育できず、夏場に枯死するリスクが高まります。また、水温の上昇は「植食性(しょくしょくせい)魚類」やウニの活性を過度に高める結果を招きました。
    ウニによる「食害」の深刻化
    磯焼けを加速させる要因の一つが、ウニによる食害です。通常、ウニは適度な量の海藻を食べて成長しますが、海水温が上がるとウニの代謝が活発になり、驚異的なスピードで昆布を食べ尽くします。
    海藻がなくなった海では、ウニ自身も栄養不足に陥り、身が詰まらない「痩せウニ」となってしまいます。これにより、漁師は昆布を失うだけでなく、ウニの漁獲価値も失うという二重の打撃を受けているのです。
  3. 北海道産昆布のブランド別・危機的状況
    北海道には「真昆布(まこんぶ)」「利尻昆布(りしりこんぶ)」「羅臼昆布(らうすこんぶ)」「日高昆布(ひだかこんぶ)」といった、地域ごとに特徴のあるブランド昆布が存在します。現在、これらの主要産地のすべてで異変が報告されています。
    道南・真昆布:最高級品の苦境
    函館を中心とした道南エリアで採れる「真昆布」は、澄んだ出汁が取れる最高級品として知られています。しかし、このエリアの磯焼けは特に深刻であり、かつての豊かな藻場は見る影もありません。漁獲量の激減により、価格は高騰し続け、一般の家庭料理には手が届きにくい存在になりつつあります。
    利尻・羅臼:厳しい環境下での戦い
    京都の高級料亭などで重宝される利尻昆布や、濃厚なコクが特徴の羅臼昆布も例外ではありません。北方領土に近いこれらの海域でも、流氷の勢力が弱まり、冬場の海水温が下がりにくくなっています。これは昆布の休眠や栄養蓄積を妨げ、品質の低下を招く要因となります。
  4. 日本の「だし文化」が直面する文化的危機
    昆布の消滅は、単なる食材の欠乏に留まりません。それは、日本人が千年以上かけて築き上げてきた「和食のアイデンティティ」を根底から揺るがす事態です。
    「旨味(UMAMI)」の根源を失うリスク
    昆布に含まれる「グルタミン酸」は、鰹節の「イノシン酸」と合わさることで、相乗効果により旨味が数倍に膨らみます。この「合わせだし」の技術こそが、動物性油脂に頼らずとも満足感を得られる日本料理の要です。
    昆布が入手困難になれば、市販の化学調味料への依存度が高まります。すると、繊細な素材の味を活かす日本独自の調理法が、次世代に継承されなくなる恐れがあります。
    経済的損失と食卓への影響
    昆布の不漁は、関連製品の大幅な値上げを引き起こしています。
  • だし用昆布の小売価格上昇
  • 佃煮、おしゃぶり昆布などの加工品の減量・値上げ
  • 和食店におけるコース料金の引き上げ
    すでに家庭の食卓では、安価な海外産(中国、韓国など)の昆布や、代替原料を使用した「だしパック」への切り替えが進んでいます。しかし、北海道産天然昆布が持つ独特の風味や粘り、厚みは、他のものでは完全に再現できません。
  1. 昆布を守るための最前線:復活への取り組み
    この絶望的な状況を打破するため、産官学が連携した様々な試みが始まっています。「今世紀末に消滅」という最悪のシナリオを回避するため、現場では懸命な努力が続いています。
    耐熱性品種の開発
    北海道大学の四ツ倉教授をはじめとする研究チームは、現在の海水温上昇にも耐えうる「耐熱性のある昆布」の品種改良を進めています。
    具体的には、比較的温かい海域でも自生している個体からDNAを解析し、その特性を掛け合わせることで、将来の環境変化に適応できる苗を作る試みです。
    ウニの駆除と藻場再生(ブルーカーボン)
    磯焼けの直接的な原因であるウニを組織的に駆除する活動も重要です。駆除した痩せウニに、廃棄される野菜のクズなどを与えて養殖する「ウニの蓄養」というビジネスモデルも注目されています。
    また、昆布をはじめとする海藻類は、二酸化炭素を吸収・貯蔵する「ブルーカーボン」の担い手としても期待されています。地球温暖化対策の一環として藻場を再生させる動きは、環境保護と漁業復興の両面で大きな意義を持ちます。
  2. まとめ:私たちが和食の未来のためにできること
    「今世紀末には北海道から昆布がなくなる」という言葉は、決して大げさな警告ではありません。このまま海水温が上昇し、磯焼けが放置されれば、私たちが親しんできた「日本の味」は過去の遺物となってしまうでしょう。
    私たち消費者に求められる姿勢
    昆布を守るためには、まずは現状を正しく知ることが第一歩です。
  • 適正な価格での購入: 安さだけを求めず、生産者の努力が反映された適正価格の商品を支援する。
  • 環境への配慮: 海水温上昇の根本原因である地球温暖化を防ぐため、日々の生活で脱炭素を意識する。
  • 伝統の継承: 簡便なだしだけでなく、時には昆布からだしを引く時間を持ち、その価値を家族で共有する。

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