共同会見でグリーンランド首相が「米国かデンマークか、今ここで選ぶならデンマーク」と明言。米国の“取得”圧力が現実味を帯びるなか、北極の小国が示した選択は、同盟・国際法・資源争奪の争点を一気にあぶり出した。

2026年1月13日、デンマークの首都コペンハーゲンで行われた会見で、グリーンランドの首相イェンス=フレデリク・ニールセン氏が放った言葉が、北極をめぐる空気を一変させた。「米国とデンマークのどちらかを選ばなければならないとしたら、ここで今、私たちはデンマークを選ぶ」──。この“選択宣言”は、領土売買という時代錯誤な発想への拒絶であると同時に、同盟国同士の圧力ゲームに対する、極めて生々しい警鐘でもある。 

グリーンランド首相イェンス=フレデリク・ニールセン氏が記者会見で発言する様子(2026年1月)

グリーンランド首相イェンス=フレデリク・ニールセン氏の記者会見の様子(画像引用元:Reuters記事内画像)
/出典:Reuters

「売り物ではない」――グリーンランド首相が世界に突きつけた強烈なNO

結論は明快だ。「売らない」ではなく、「売り物ではない」。

「(米国とデンマークの)どちらかを選ばなければならないとしたら、ここで今、私たちはデンマークを選ぶ」

この発言が重いのは、“感情的な反米”だからではない。国家と住民の自己決定権を、交渉テーブルの外側に置いたまま話を進めようとする動きに対し、「それは成立しない」と線を引いたからだ。人口規模や軍事力の大小ではなく、「主語は私たちだ」と言い切った瞬間、北極の議論は一段リアルになったようだ。 

率直に言えば、この“NO”はカッコよさのためのポーズではない。むしろ逆で、彼らは「きれいごとでは済まない危機」を理解した上で、譲れない一線だけを死守した。小国が大国の言葉尻に巻き込まれた瞬間に失うのは、領土ではなく「主体性」だ。その損失は、あとから補助金や基地収入で取り返せないであろう。

「地政学的危機に直面している」北極の小国が迫られた“究極の選択”

「選ぶ」という言葉自体が、すでに圧力の存在を告白している。

「(私たちは)地政学的危機に直面している」

ニールセン首相が繰り返した「地政学的危機」という表現は、北極が“遠い寒冷地”ではなく、戦略・資源・航路が交差する前線になったことを示す。氷が後退し、船が通り、地下資源が現実の計算対象になるほど、そこは「誰かの玄関」になる。結果として、グリーンランドは“選ばされる側”に立たされる。 

重要なのは、米国とデンマークが本来「両立」していた点だ。安全保障の現場では米軍の存在が大きく、行政・生活基盤ではデンマークとの結びつきが深い。ところが“取得”という言葉が登場した瞬間、関係は協力から「所有」へと歪む。小国の外交は、選好の問題ではなく、生存の手続きに変わってしまう。

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焦点は「ロマン」ではなく、基地・監視・北極戦略という現実だ。

北極圏の軍事的価値が上がるほど、グリーンランドは米国にとって“地図上の空白”ではなくなる。象徴的なのが、米国が運用するグリーンランドの拠点だ。基地の存在は、もはや「ある・ない」の話ではなく、「どこまで拡張し、どんな権利で運用するか」という権限の問題へ進むであろう。

グリーンランドの米軍拠点ピトゥフィク宇宙基地(Pituffik Space Base)の施設写真

米軍拠点「ピトゥフィク宇宙基地(Pituffik Space Base)」の写真(画像引用元:Wikipedia)
/出典:Wikipedia / Pituffik Space Base

そして、ここが肝だ。米国が同盟国との協議や合意形成ではなく、“獲得”という語彙に寄せた瞬間、戦略は合理性よりも政治の演出に引っ張られる。短期的には支持者にウケる。しかし長期的には、相手国の世論を硬化させ、同盟の調整コストを跳ね上げる。外交はいつも、乱暴な言葉から先に壊れる。

米国か、デンマークか――「選ばなければならない」と語った瞬間の重み

“二択”が提示された時点で、勝者はだいたい第三国(=競争相手)だ。

「(どちらかを)選ばなければならないとしたら」

この「選ばなければならない」は、外交の言語として異例に率直だ。なぜなら通常、自治や同盟の現場は“重ねがけ”で成り立つからだ。安全保障で米国、制度・経済でデンマーク、文化と生活は住民自身。ところが二択にされると、住民は「より近い方」「より説明責任を果たす方」に寄る。今回の宣言は、その本能的な帰結でもある。 

ここで重要だと思うのは「親米か反米か」という単純化を避けることだ。彼らが守りたいのは米国を拒むことではなく、“こちらの意思を通す回路”である。どれだけ軍事的に強くても、相手の住民感情を敵に回した計画は、最後は詰む。

同盟国からの「受け入れがたい圧力」デンマーク首相が漏らした本音

同盟とは「従属の契約」ではなく、「相互の信頼」でしか成立しない。

グリーンランドが“デンマークを選ぶ”と口にしたことで、デンマーク側もまた「同盟国間の圧力」という難題を直視せざるを得なくなった。同盟の内部で主導権争いが剥き出しになれば、結局は北極圏の競争相手(ロシア・中国など)に有利な空間を与える。ここは感情論ではなく、構造の問題だ。

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会談の本質は「面子」ではなく、「言葉を現実に変える手続き」を止められるかだ。

会談が設定されるほど状況が動いている、という事実自体がニュースだ。ここで焦点になるのは、基地運用、投資、鉱物資源、そして“自治の尊重”をどう枠組み化するか。落としどころは「米国が何を得るか」ではなく、「グリーンランド住民が何を失わずに済むか」に置くべきだ。そうしない限り、合意が成立しても正統性が残らない。

中国・ロシアをにらむ北極圏――グリーンランドが「世界の要衝」である理由

北極の価値は、資源と航路に加え“監視と早期警戒”の地理で決まる。

北極は、資源と航路だけで価値が生まれる場所ではない。むしろ軍事・情報の文脈では「どこを見張れるか」「どこにセンサー網を置けるか」が核心だ。その意味で、グリーンランドは地図のど真ん中に座ってしまった。座ってしまった以上、無関係ではいられない──ここが小国にとっていちばん残酷なところだ。

氷雪地帯が広がるグリーンランドの風景

グリーンランドの風景(画像引用元:Wikimedia Commons)
/出典:Wikimedia Commons / Greenland scenery

NATOも動く――北極圏安全保障が迎える「最も困難な局面」

最大のリスクは「外の敵」より「内側の不信」で同盟が割れることだ。

北極で同盟の論理が崩れると、修復は難しい。なぜなら北極圏は“日常的な共同運用”がモノを言う領域だからだ。情報共有、共同演習、基地の相互利用、政治の説明責任。どれか一つが欠けても、即座に運用が鈍る。今回の一件は、同盟の強さが「兵器の数」ではなく「合意の作法」で決まることを、残酷なほど示している。

「選ばなかった米国」と「選んだデンマーク」――この決断が世界に残すもの

小国の選択は、大国の“言い方”と“やり方”を査定する鏡になる。

「デンマークを選ぶ」という言葉は、米国を否定するための宣言ではない。むしろ、米国が同盟国として尊重され続けるために必要な条件──主権、住民意思、手続きの正統性──を突きつけたものだ。これを“メンツの問題”に矮小化すればするほど、北極の現実は悪化する。 

大国のパワーは確かに圧倒的だ。でも、住民が「自分たちの未来の主語」を手放さなかった瞬間、そのパワーは万能ではなくなる。グリーンランドの“NO”が示したのは、理想ではなく、国際政治の最低限の現実──「人を無視した計画は最後に負ける」ということだ。